駄文

掌編詰め

ラストレター

これは君にあてる最後の手紙です
君と出会ったのはとても寒い日のことですね。大雪に見舞われ電車が全面運行禁止になり何人もが立ち往生をしてしまった、そのなかにわたしと君が居た。手を擦り合わせてどうしたものかと困っているわたしに君は「東京もこんな大雪が降るんですね」と話しかけてくれたね、わたしはその時どう返事をしたのか覚えていないけれど、君がとても綺麗な人だと思ったことは覚えている。
君は大学の進学を機に東京へ出てきたばかりの初々しい女の子だった。一方わたしは荒波に揉まれ、疲弊したただのサラリーマン。未来に向けてきらきらしている君はとても眩しかった。
それから何度も会ったね。公園から喫茶店、初めて君の家に行った時には緊張でどうにかなりそうだったよ。手土産に持って行ったスイーツを長い行列に並んで君のために買ったことも今ではいい思い出だ。
毎日、今君は何をしているんだろうと考えては浮かれている私が居た。君のおかげでどん底だった人生が変わったんだ。そして、どん底に落とすのも君だった。君が同級生の男の子と歩いているのを見たときにどれだけ私がショックだったか。君は友達だよ!と言った言葉をわたしは君を信じることにしたんだ。でも、それは嘘だったんだと気付いた、今もこの手紙を一緒に読んでいるんだろう。出会った当初はあんなにも綺麗だったのに、その男が隣に現れてから君は変わってしまった。
でもわたしは分かっている、君がわたしを裏切るようなことをする女の子じゃないって。だって私達はあんなにもお互いを思い合っていたんだから。

君が風邪をひいた時に差し入れたおかゆを手づかずに棄てたのだって、食欲がなかったからだってちゃんと分かっているし、何度も電話をしても出てくれないのも恥ずかしがり屋だからって分かってる。わたしも自身シャイだから電話にでてもらっても無言が続いたけれど言いたいことはお互い分かっていたよ。
きっとその男に強要されているんだよね。大丈夫わたしがその男から君を守ってあげる。

これは君に送る最後の手紙になる、これからわたしは君のために刑務所に入ることになるだろう。それでもわたしは君を愛している。刑務所から出たら君を迎えに行くよ。

2人が手紙を読み終えたと同時にインターフォンの音が部屋に響いた。

人生ままならないものである

2月24日
組織への潜入を果たした。目的はひとつ、敵国が全世界で禁止になった原子炉を秘密裏に保管し、核兵器の開発に取り組んでいるという。その核兵器の破壊と、研究施設の壊滅。核兵器庫へのプロダクトコードは既に入手している。完璧だ。ここまで完璧にやって来た。敵は見つからない場所で排除し、死体もすでに隠してある。俺は足音を押し殺しサプレッサーを付けたアサルトライフルを担いで進む。見つかりそうになると身をかがめ、息を押し殺す。自分がエージェントである事を自負しているが、今までの作戦でこれほど完璧だったことはなく。気分は高揚していた。たが、頭は冷静だった。この戦いで全てが終わる。息を吸って、吐いて。さあ行くぞと、力を込めて一歩踏み出したところで銃声が聞こえた。まさか、気づかれた?顔に緊張が走る。煩い足音を立てながら、マシンガンを持った男が入ってきた。後ろに大勢の敵を連れて。俺の頭は一瞬白く染まったが直ぐに現状を把握する。男の頭上にはフレンドのユーザーID。うん、一緒に遊んでいたもんだな。存在を忘れていたわけじゃないさ。フレンドは俺に気づくと「悪かった!」とテキストを残して走って行ってしまった。
「嘘だろ」
呟いたがもう遅く、俺までも敵に気付かれて集中砲火を受けた。響く銃声、倒れる俺。フレンドもその先で死んだらしかった。
「………」
今までの努力が水泡に帰した俺はそっとゲームを終了した。
これが今日の出来事。隣に酒を置きながらの、正午2時、日曜日の話。

2月25日
件のフレンド、同僚が俺に「やー昨日は残念だったけどまた一緒に遊ぼうぜ!」と休憩時間に言ってきたが、俺はにこやかに別のゲームを提案した。大乱闘でこいつをぼこぼこにしてやる。今日も仕事場は平和だった。
3月10日
件のフレンドを含むメンバーで大乱闘で遊んだが、結果逆に俺がぼこぼこにやられた。人生ままならないものである。

月が綺麗ですね

部活の帰り道、同じ方向という理由だけで一緒に帰っていた後輩が唐突に月を見上げて朗らかに笑った。夏目漱石がI love youを月が綺麗だと訳したのは有名な話だと思う。それにこのひとつ年下の後輩は時間さえあれば楽しげに本をめくっているのだ。これはもしかしたら遠まわしに俺に告白をしているのではなかろうか。そう思考をめぐらせた俺は緊張してきて手に変な汗が吹き出てきた。今まで女子に告白されたことのない俺にとって緊張するなというほうが無理な話だ。正直この後輩のことをそういう目で見たことはなかった。特別かわいいわけでもないけれど、人好きのする笑顔と明るい性格は好ましいと思う。俺を好きだというのなら付き合ってもいい。
「付き合っても良いよ」
だからそんな言葉を口にした。どんな顔をするのだろう、どきどきしながら隣を歩く後輩を見ると彼女はぽかんと口を開けて間抜けな顔をしていた。
「あたし先輩に付き合って欲しい場所なんてないです けど」
あれ…思っていた反応と大分違う。
「…普段本読んでいたよな?」
「あぁ!あれラノベです!面白いですよ。何?先輩興味あるんですか!?」
きらきらした目で見上げられてしまった。とんだ勘違いに羞恥で顔が赤くなる。
「あれ?どうしたんですか先輩?」
お前が俺に告白したのかと思ったなんてこと言えるわけがない。そんなことを知られて笑い話にでもされたら、死んでもいいよ<BR>

次の目覚めを

愛おしい人がいた。その人のことを深く、深く、愛していた。
けれど彼女が愛したのは別の人だった。
だから、ああ、その記憶を根こそぎ奪ってしまおう。
奪ったその記憶を灰にして燃やしてしまえば彼女はその人を愛することは無い。
だから僕は、寝ている彼女の頭を切開して、中から脳を取り出した。
記憶とは海馬に宿るものらしい。
ああ、でも海馬ってどこだろう、よくわからない。
解剖の図鑑を見て海馬の場所を探す。
他のところをなるべく傷つけないように探り当てた。
ああ、ここだ。これをなくしてしまおう。
僕は海馬を脳から引きちぎると。バケツの中に捨てた。
これを燃やそう。
後は大切に脳の中に戻して、丁寧に繋ぎ合わせて糸で縫っていく。
少し場所がずれたかもしれない、でも大丈夫。
彼女が次に目を覚ました時にはもうあの男のことなんてさっぱり忘れて、きっと僕だけを愛してくれる。
彼女の頬に飛び散った血液を綺麗に丁寧に布で引き取ってから、うっとりと眺めた。
だれよりも愛おしい人。早く目を覚まして、僕だけをその瞳に移してよ。

嫉妬というには激しすぎる

はい。あーん。にっこり笑いながら差し出されるそれに汗がだらだらと流れていく。拳を握りしめ口を真一文字に結ぶ。あの女には デレデレしてそれか?そんな態度か?嫁の料理は食えんのか?意を決してくとを開くと、それが放り込まれた。口のなかを襲う猛烈な刺激に悶絶する、震える手もそのままに衝動に耐えた、決死で飲み込んだが、げほげほと噎せた。痛い、死ぬ、ヒリヒリする。満身創痍の俺の目の前で彼女はマグマの如く赤く染まったカレーをスプーンですくってにっこり笑う。嫉妬というには激しすぎるそれ。そんな君も愛してるぜ。虫の息の俺に激辛料理を突っ込んできた

電話

「もしもし」
受話器から聞きなれた声がした。ありえない。この声が電話をかけてくるはずがない。
「どうしたんだよ、俺の声忘れた?」
そんなわけがない、忘れるはずがないたったひとりの弟の声。でも電話がかかってくるはずがない。だって弟は交通事故で亡くなった。俺は幻聴を聞いているのか?
「早く兄貴もこっちにこいよ」
ぞっとした、これはタチの悪いいたずらだ!!電話を投げつけるようにして受話器を戻す。心臓がどきどきと煩い。心臓を静めようと立っているとがらがらと音を立てて玄関の引き戸が開いて俺はほっと息を吐く。
「おかえり」
両親が帰って来た、でも俺の声には答えずにふたりともさめざめと泣いている。
「あの子に続いておにいちゃんまで…」
「スピードを出しすぎて曲がり切れなかったなんて馬鹿なやつだ」
あぁ、そっか。電話がおかしくなったんじゃない、俺が―。

りゅうせいぐん

めがさめたらぱぱとままがよぞらをみていた。
「おほしさまをみているの?」
「きょうは流星群が見られるんだ」
「りゅうせいうぐん?」
「お星様がそらからたくさん降って来るの」
おほしさまがふってくる!!たいへんだ、たいへんだ!ぼくはあわててげんかんへとはしっていって、めあてのそれをにぎゅっとにぎってぱぱとままのばしょへいそいでもどる。そしてそれをぱっとひらく。ぱぱのつかっているおおきなかさだ。
「おほしさまがふってきたらあたまにぶつかっちゃうよ!」
ぼくのこえにぱぱとままはわらった。そらがきらきらとひかりはじめた。

狭き門

メェメェメェ、憐れな子羊たちが鳴いている
「どうか罪をお許しください、お許しください」
メェメェメェ、憐れな子羊たちが泣いている
「どうか罪をお許しください、お許しください」

んーんーんーそれにはノーとしか僕はお答えすることができないのです。君達は知らないのかい?知らないんだろうねぇ、許しを請えば許してもらえるだなんて思っている憐れな子羊たちだから。明日焼かれてしまう野の花がどうして許されるか知っている?彼女はとても純粋だからさ。そう神様は純粋なものが大好きなのさ!どうして罪のない子供がこんな仕打ちにあうのです?って鳴いている子羊よ、答えは単純明快。子供という生き物が純粋だからさ!純粋で綺麗なものは綺麗なまま神様が欲しがるのさ。大人になったら汚くなっちゃうだろ?そんなものはいらないのさ。え?でも許されたいだって?あぁ子羊よ、子羊たちよ。大丈夫大丈夫、神様は潔癖で綺麗なものしか天国には招いてくれないけど、もう一度生まれ直してこればいいんだよ。さすれば神様だって許してくれるはずだ、綺麗になってやり直して、綺麗なまま死んだら許してくれるのさ。だから君達は、もう一度この世という地獄をやりなおしてください。それではまたここでおあいしましょう!!願わくば今度は君達が許しを請うほどの罪を背負ってない、綺麗な人間であることを望むよ、では、また来世っ!!

そういうと天国の門番はわたしたち羊に銃口を向けてためらうことなく指をかけた。

変な生き物が話しかけてきた

魔法少女として世界を救ってほしいんだ。 奇妙な生物が話しかけてきたので捕らえて飼育してYouTubeにUPしてやろうと虫取り網を持ち出したら逃げ出した。世界は今日も平和です。

どういうことなの

アメーバとミトコンドリアどっちのほうが可愛いと思う?そう聞かれたので君がいちばんだよ。と笑って見せたら、あなたはゾウリムシよりはかっこいいと思う。と言われた。喜ぶべきなのか悩んでいる。

明日

また明日。明日が当然にあると疑わない真っ直ぐな目で君は僕に笑って手を振った。僕はまたね。と返したけれどまた明日とは返せなかった。君がいなくなった真っ白な室内は無機質で静かで、僕は体を丸めて明日があるよう祈るのだ。

平和的な戦争

ではここに第三次世界大戦のルールを発表する!各国の代表はステージに上がり一発芸を披露してもらいます!
ジャッジするのは公平を期して子供の笑い声です!え?代理?馬鹿を言うな!!国の戦いに国民を巻き込んでどうする!国のトップがやるに決まってるだろう!

ヒーロー

君もこれでヒーローだ!そう書かれたキャッチフレーズにぼくはわくわくと胸を躍らせてお母さんに買ってほしいと頼んだ。お母さんは我慢ができたら君はこれで大人だ!と笑ったけれど、僕は大人よりもヒーローになりたかった。

伝説の通販

「本日ご紹介するのはこちら!かの王がお使いになったという剣。エクスカリバーです!」
「わお。すごいわ!」
「このエクスカリバーが一家に一台あれば万能。例えば、キャベツもこの通り」
「綺麗な千切りね!これならキャベツが刻みきれてなくて繋がっちゃうなんてこともないわ!」
「それに刃が長いので高枝だって切れちゃう!」
「画期的ね!」
「しかも!タイヤだって、要らなくなった粗大ゴミもコンパクトに出来ちゃうんです!」
「これさえあれば、他の刃物なんて要らないわ!!こんなにすごいもの。お値段相当張るんじゃない?」
「それがそうでもないんです!このエクスカリバー、仕舞うための鞘まで付いてこのお値段!じゃん!!19万8900円!」
「なんてことなの!この世にひとつしかないエクスカリバーがこんな良心的な値段!!本当にいいのかしら?」
「いいんです!今ならなんと、足つぼマッサージ機まで付いてきます!」
「これは買うしかないわ!」
「限定1品限りです!皆さんじゃんじゃん電話下さい!!」
「早くかけないと無くなっちゃうわ!」

「次回は、大人気。アブドゥル・アルハザード著のネクロノミコン!原本です!」
「すごい!魔道書じゃない!しかもこの世にひとつしかない原本なんて!」
「これの凄いところは魔道書だけでなく!押し花まで作れてしまうんです!」
「まあ。ファンシー!他の使い所も気になるわ!」
「気になる人は来週も見てくれよな!」
「勿論見るわよね!」
「また来週!」

白紙の物語

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白紙、まっさら、何もない、白、白、白、白、

わたしはひとり、一文字も書かれていない白だけが埋め尽くすノートパソコンの前に居座っている。一行書いては消し、一言書いては消し、一文字書いては消し、白紙、まっさら、まっさら。小さな頃から空想が好きだった、自分の世界をどこまでもどこまでも広げて繰り広げる場所は無敵に思えたし、とても楽しい。今でも物語は好き。人の物語に入り込んで旅をすることも、恋愛することも、笑って、悲しんで、また笑って。自分で文字として世界を描いた時には、好きな空想が広がってそれが形になる。新しい世界、新しい物語、どこまでもどこまでも飛んでいけるような素晴らしい体験。なのに。いまのわたしの前は白い。世界には絶えず新しい物語が産まれている。絶賛される物語、共感される物語、独り善がりな作品だと笑われる物語、涙する物語、誰にも読まれることなく埋もれてしまう物語。世界は新しい世界が満ちて溢れて、今にも誰かが、文字で、言葉で、歌で、体で、新しい物語が作られている。なのに、わたしの手は止まり白をただ見つめてる。書きたい物語があったはずなのに。

白紙、空白、白、白、白、

こんな時は、いちど手を止めよう。そう決めてわたしは何も書かれていないノートパソコンを閉じた。新しい物語が湧いてくるその時まで

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