駄文

クリームソーダとコーヒーふたつ


元妻の二番目の夫は若く、生き生きとして、綺麗な顔立ちをした男だった。対して一番目の夫である俺は一回りも年上のくたびれたおっさん。妻よりも俺に懐いていたはずの息子は迷わずに妻と暮らすことを選んだ。俺の心境としてはさっぱり意味が分からなかった。そもそも何故離婚を切り出されたのか自体分かっていない。浮気もしないし、ギャンブルはしない、仕事だって普通にこなしている。何が悪かったのか離婚して数年たつが未だに分からない、だが結果として離婚し養育費を妻に支払うことになった。 息子と会うことは許されているが、何故息子とふたりきりでなく二番目の夫が隣に座っているのか。10歳になる息子の前にはクリームソーダ。二番目の夫の前にはホットコーヒー、一番目の夫の前にもホットコーヒー。普通気まずくなるだろう、なのにへらへら笑いやがって。苛立ちを隠すように煙草を取り出して銜える。
「あ、火つけますよ」
なんなんだよ!なんで元夫の煙草に火をつけようとしている?俺は断って自分の100円ライターで火をつけた。煙が肺に染みわたる。男ふたり横に並んで、息子はクリームソーダのうえに乗っているアイスをおいしそうに食べている。なんだこの光景。お前なんでこっち座った?息子も何故父の隣に来なかった?
「この間、泰一君テストで100点取ったんですよ。やっぱり父親が頭がいいとその影響があるんでしょうね」
義理の息子を眩しそうに見つめながら二番目の夫がそんなことを言い出した。だから!なんでそうなる!?息子を愛してくれるのはいい。義理でも本当の息子のようにかわいがってくれるのは、実の父親としては少し複雑な気持ちもあるが、息子の居心地のいい空間を作ってくれることはありがたい。だが、しかし!なぜそこで俺を褒める必要がある?俺を馬鹿にしているのか?新手の嫌がらせか!?俺はツッコみたいのを堪えて灰皿に灰を落とした。
「100点か。点数よりも努力を褒めてやってくれよ」
「はい!いやあ、さすが。為になります」
メモ帳まで出して書き始めた。お前本当になんなの?
「お母さんとは仲良くやってるか?」
アイスに夢中の息子に聞く。
「はい。毎日行ってらっしゃいのキスをしています」
お前には聞いていない!二番目の夫!何故元夫にその報告をした。しかもいってらっしゃいのキスだと!?俺の時は新婚2週間でその習慣は終わったのに2年経っても続いているだと!?
「そうですか」
俺は煙草の吸殻を灰皿でもみ消した、俺自身も灰になっていく気持ちがした。
「煙草身体によくないですよ」
そんなことお前に指摘されなくとも知ってる。
「もう少し会えたらいいんですけれど、泰一君ももっとお父さんと会えたらいいでしょうし」
「僕はこのくらいでもいいけど」
心無い息子の言葉、お父さん泣くぞ。
「だったら、俺とふたりで会ってくれませんか」
「なんでだよ!」
心の声がそのまま出た。
「その。夫婦円満の秘訣とか、子育ての相談とかしたいなって」
俺はお前の現妻と離婚してるんだよ、そんな男に夫婦円満の秘訣を聞くのは間違っている。反面教師にするつもりなの?子育ての相談?妻とやれよ!
「僕これから友達と会う約束しちゃったんだけど。会いに行ってきてもいい?」
「勿論。5時には帰ってくるんだよ」
「なんでだよ!?ねえ、父さんはお前に会いに来てるんだよ?友達と遊ぶのはもちろんいいけど、もっと話をしようよ!今日この日曜日は父さんにちょうだいよ!」
流れるような会話に混乱する。いつの間にか息子のクリームソーダはカラになっていた。息子の両手を握ってまだ行ってくれるなと訴える。
「…父さん。そういうところだよ」
どういうところ!?どういうこと!?ねえ、父さん全然分からない、ぜんっぜん分かんない!!息子は俺の手を振り払うとごちそうさまでした!ときちんと両手を合わせてファミレスから出て行った。礼儀正しい子に育ってくれて嬉しいが、毎日会える友達よりも久々に会えた父さんを優先して欲しい、息子の小さな背中を茫然と見送る。
「やっとふたりきりになれましたね」
「だから!お前は何なんだよ!!」
二番目の夫に笑顔を向けられて俺は心の底から叫んだ。

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