駄文

シチュエーション


「俺お前のことが好きなんだけど、どう告白したらOKしてくれるかな」
「普通でいいけど」
「普通!?普通が一番難しいんだよなあ!もっと、こう、希望はないの!?王子のように跪いてほしいとか、フラッシュモブで告白とか、花火にお前が好きだ!って打ちあがるとか」
「そういうの無理」
「え。じゃ、じゃあ!クリスマスツリーの前でイルミネーションの光を浴ながら、好きです!どう?」
「今春だよ、冬まで待つの?」
「あ、あーそうだよ!そんな時間はない!その間にお前が別の男と付き合うことになったらと思うと嫌だ。じゃ、じゃあシンデレラ城の前まで行って告白するよ」
「人込み好きじゃないし、あのねずみの何がかわいいか分からない」
「ドライだな!スーパードライだな!俺はまあそういうところが好きだけど。じゃあ、もっと大人な雰囲気で行く?夜、海が見える公園で遠くに綺麗な灯りが見えてさ。そこでさらりと、好きだ。これならどうだ!」
「ここ海なし県」
「そうだった!じゃ、じゃあ。ドライブデートの後に告白する!」
「無免許運転」
「そうだった!後1年も待てない!」
「はあ」
ひとりあれやこれやと悩んで頭を抱える彼を横に、彼女はひとつため息を吐くと、半分泣きそうになりながら俯いている彼に顔を近づけてキスをした。
「好きです。付き合って」
「………はい」
彼は真っ赤になって頷いて、彼女は満足そうに微笑んだ。

…っておいおいおい!!なんでこんなところでやる!?ここは電車のなかだぞ!二人きりの時にすればいいだろ!元からこいつらはいちゃいちゃしていた。むしろもう付き合ってると思っていた。お前たちと少し離れて隣に座っているおっさんは若いっていいなあなんて顔しているし、別の学校の制服をきた人なんてめちゃくちゃ気まずそうな顔してるじゃないか!俺なんてこのふたりと一緒に帰っていたはずなのにいつの間にか空気だ!恋に盲目もいいところだ!勝手にやればいいが、せめてTPOをわきまえて欲しい。
「うちら完全に忘れられてるよね」
一緒に帰っていた門脇の言葉にそうだなと頷いて、ふと思った、これはむしろチャンスなんじゃないか?彼女に告白して、今度は友人グループとしてではなくお互い恋人同士としてのダブルデートで出かけられるかもしれない。
「あのさ、門脇...」
「花ちゃんも変わってるよね。普通でいいなんて、わたしはフラッシュモブもシンデレラ城も花火も、全部やって欲しい。でもそれを全部断って、最終的になんでダメなんだ!どうしても好きなんだ!付き合ってくれ!って土下座までしてくれたら、もうかわいいよね、付き合うよね」
100年の恋も冷める発言だな、門脇。だが任せろ、俺は土下座には定評がある。
「楽しみにしてるからね」
「かっ、門脇っ!任せろ!」
俺は感激しながら彼女の言葉に頷いた。
「あ。おれ、ここで降りるんで、また明日な」
俺たちは思い出した、もうひとりここにともに帰っていた友人がいることを。
それぞれの世界に入り込み、周りを見ているようでまるで見ていなかったことを。
先ほどまでは気にならなかった電車の揺れる音や他の学生の話し声、ヘッドフォンから聞こえる音漏れ、イフォンもせずにゲームをしている電子音が聞こえてきた。申し訳なさを感じながら俺たちはそいつに「また明日」と手を上げた。 そいつが電車を降りた後、壁を殴るのを見た。

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