駄文

500円コース 05


それからというもの叶先輩と一緒に康成の家に子猫を見に遊びに行くようになった。いちど家へと寄るのも面倒なのでそのままの足で康成の家へと向かうのが通例となっていた。この日も康成の家へとお邪魔する。毎回思うがここは動物園じゃないかというほどに動物の種類が多い。それにも関わらず動物の臭いというのが薄いというのが不思議だ。康成が家は広いから?玄関前の犬小屋には老犬が寝そべっているが番犬としての役割はなさず、俺らを見ても片目を開けただけで微動だにしない。裏山からはヤギの間延びした鳴き声も聞こえてきた。家に入るとまず出迎えてくれるのが玄関先にある水槽に悠々と泳いでいる金魚と大きな鳥篭のなかに目をぱちくりしている九官鳥。金魚の種類は出目金ぐらいしか知らないが頬が膨らんでいるのとか、変わった金魚も泳いでいる。彼らの名前はネギ、シュンギク、シラタキ、らしいがどれがどれなのか分からない。
「ただいまー」
「こんにちは!こんにちは!」
康成の声に反応して九官鳥が喋る、この九官鳥のどざえもんがこんにちは意外喋ったところを聞いたことがない。
「ちがうだろーお帰りだ、お、か、え、り」
「こんにちは!」
丁寧に一字一句言葉をきりながら伝えるが、どざえもんには通じない。そんな応酬をしているとスリッパの音が聞こえて優しそうなおばあさんが出迎えにやって来た。
「お帰りなさいませ。ぼっちゃん」
彼女は五月さん、この家のお手伝いさんだ。
「お邪魔します、五月さん」
叶先輩が言い、僕も慌てて隣でお辞儀をしてお邪魔しますと声をかけた。
「えぇ、後でお茶を持っていきますね」
五月さんが微笑む。康成は盛大に靴を脱ぎ散らかすと家へとあがった。
「康成、靴くらいもう少しちゃんと脱げよ」
毎回のことだけれど俺はつい口出ししてしまう。康成の靴を下駄箱の方向に向けて揃えた。
「お前はオレのかーちゃんか!」
でも康成は楽しげにケタケタ笑うだけだった。この家の人は甘やかしすぎではないだろうか、彼は常識を逸脱していることが多い。叶先輩はきちんと靴を揃えて家へと上がった。俺もその後に続く。康成の部屋は廊下を歩いて奥の部屋になる、昔ながらの日本家屋の平屋でやたらと広い。年配の人は家のことをお百姓さんとかと呼んだりしている。康成のこともぼっちゃんと呼ぶ人も近所でも珍しくない。
「ただいま。ダン!」
襖を盛大に開け放ち康成が子猫の名前を呼ぶ。ダンボールはどうしても払拭出来なかった。
康成に呼ばれると子猫は嬉しそうににてこてこ走ってきた。かわいい。嬉しそうに康成は両手を広げたが、飛びついた先は俺だった。俺は康成のようにこの子を飼うことも出来なかったし、叶先輩のように傘を差してあげたことも無い。むしろ何も出来ないと見て見ぬふりをしようとした最低な人間だ。それなのに何故俺のところに来るのか。多少の罪悪感を感じながらた抱きとめた
「ちぇ、やっぱ望かよ。世話してんのはオレだっつーの」
悔しそうにダンの頭をぐりぐりと撫でる。
「望君の場所が一番安心するんだろうね」
ダンを抱えたまま畳のうえへと座ると、隣に座った叶先輩が康成の手が離れた後優しくふれた。なんだか妙に近くくないか?落ち着かなくて少し距離を開けてしまった。叶先輩の手が止まる。嫌な思いをさせたかもしれない、不安になってちらりと叶先輩を見ると視線が重なった、叶先輩は少し驚いたみたいだったけれど微笑んだ。なんだか気まずくて視線を逸らす。なんでこんなに近いのだろう。あの夢が変なふうに叶って叶先輩は俺の事が好きになってしまったのだろうか?……いや、ない!そんなことありえない!!てか、なんでそんなこと考えてるの!自分の思考を振り払いたくて、思わず強く目の前のもふもふを握ってしまった。ふぎゃっと鳴いて彼女は逃げてしまった。
「ごめん」
謝る声も聞いてくれない、康成は逃げたダンを捕まえようとこっそり手を伸ばしていた。…そういう所がいけないんじゃないか。
「失礼します」
五月さんが襖を丁寧に開けて入ってくる。今まで俺に懐いていたダンはあっさりと裏切って五月さんのところへと行ってしまった。やっぱり飯をくれる人が1番か。五月さんはふふと笑いテーブルにおしぼりとお茶とお茶菓子を並べる。
「ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくりしていってくださいね」
にこりと微笑まれる。五月さんはそのまま出て行ってダンもそれについて行ってしまった。
「全然かまってくれねーし」
よほどかまってもらえなかったのが悔しいのかテーブルに突っ伏してお茶菓子であるみたらしだんごを手に取る康成。
「行儀悪い、ちゃんと座って食べなさい」
「お前はオレのかーちゃんか」
何回言っても康成はいうことを聞かない。これは早く彼女とか出来たほうがいい、徹底的にしごかれたらいい。俺は用意いてくれた手にちょうどいい温度のお絞りで手を拭ってからお茶を飲む。
「あつ」
康成の家は熱い緑茶が出てくる。知っていたにも関わらずに飲んでしまった。
「大丈夫?火傷したら大変だ」
叶先輩はそう言うと俺の顎を掬って、舌見せて?なんて言ってくる。大人しく口を開ける。ぴりぴりする
「少し火傷してしまったみたいだね、お水貰ってくるよ」
叶先輩は手を離して立ち上がる、五月さんに言ってくれるのだろう。そこまでしなくても平気なのだか俺が止める間も無く叶先輩は席を立ってしまった。………というか、さっきの何だろう?何も考えずに言われた通りに動いてしまったが。思い出すと自分がとんでもないことをしてしまったような気がする。羞恥で顔が熱くなる。叶先輩は誰にでもやるんだろうか?でもそうじゃないとどうして俺にやったのかが分からない。あの変な夢の願いごとが頭から離れてくれない。だから!なんで意識してんだよ!俺!!1人であわあわとパニックに陥っていると。はたと、康成がこっちを見ていることに気がついた。なんだかすごく気まずい、そんなことを思っているのは俺だけかもしれないけど。
「付き合ってるの?」
ふと落とされた爆弾発現。
「は、はぁっ!!?俺と叶先輩がっ!?」
「今の言葉でそういう風に解釈する事態がそうとしか思えない」
いや、それはなんか別のことを考えていたからでっ!!かああと顔が熱くなる。いや、これじゃあなんか肯定してるみたいじゃないか!いや、違う、付き合ってない!実際に付き合ってない!!
「いいんじゃね?オレはそういう偏見ねーし」
そういう問題じゃない。
「違うよ、付き合ってない」
本当のことを言う。………で、でも、どうなんだろうか、はたから見ていてそう感じるということは、叶先輩が俺のことを好きだとかそういうふうに見えるということなんだろうか…?
「……叶先輩が、俺のことどう思ってるように見える?」
「ただの後輩にはあんなことするとは思えねーな」
じゃあ好かれているんだろうか?でも男から好かれたことなんか無いしどうすればいいのか分からない。それにどうしかそれを気持ち悪いとか思わない。叶先輩なら別に……って、どうしてしまったのだろう自分は。
「どうすればいいとおもう?」
こんなことを康成に聞くのは間違っているとは思うのだけれど、ここには康成しかいない。
「オレに聞かれても、がんばれ!としか言えねーな」
がんばれと言われても。どうすればいいのか。

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