駄文

鏡の国の 04 ともだち


「でね、ありす、そのぶらいあんって子も渋々だけれど後で謝ってくれたの。めあり達が居てくれなかったらそんなこと起きなかったと思うの」
ありすは家に帰ってから、さっそく今日あったことを鏡のありすに伝えた。前にめありのことを話したときあまりのり気じゃなかったことは覚えているけれど、どうしても話したかった。鏡のありすにもめありがとてもいい友達なんだってことを知ってもらいたい。
「ふぅん、でもありすそのめありって子はともかくその周りに居る子たちはどうかと思うわ」
「ぇ?」
何を言っているのだろう。めありだけじゃなくめありの友達だっていい子達のはず。だってめありに続いてありすのところに来てくれた。あんなことを言うなんてぶらいあんてば酷い!ありすに謝って!とぶらいあんに強く言ってくれたのも、その子達だ。
「ありす、いーい?その子達はめありがあなたを心配していたから、心配しているフリをしていたのよ?」
フリ?どうしてそんなことをするのかありすには全然分らなかった、ありすは鏡のありすの言葉に首を傾げる。
「その子達はめありの友達であってあなたの友達ではないのよ」
その言葉にありすはかちんときた。たしかにありすがめありと一緒に話しているときにその子達は来るけれど、ありすとだって話をしたりする。ありすはその子達のことをちゃんと友達だと思っているし、その子達だって同じはずだ。
「ありすってば酷い!ありすはあたしに友達がいっぱい出来るのを嫌がってるんだね!もう知らない!!」
ぷいっとそっぽを向いてありすは鏡の部屋から出て行った。酷い、ひどい!!嬉しいことがあったからそれを鏡のありすに話していただけだったのに!どうしてあんな酷いこと言うの!?どすんどすんとありすは階段を降りてお菓子でも食べてしまおうとキッチンへと向かった。そこでは母親が夕飯の支度をしていた。
「ねえありすあなた、誰と話をしていたの?大声を出していたみたいだけれど」
「別に」
鏡のありすはありすにとって秘密の友達だと思っているし、それに喧嘩したばかりだから鏡のありすのことを話すことはしたくなかった。
不機嫌そうな表情と、さっきの大声とに母親は首を傾げたけれどそれ以上追及しようとしなかった、それでもありすがお菓子へと手を伸ばすとぴしゃりと言い放つ。
「もう少しで夕飯だから我慢しなさい」
ここでお菓子を食べると夕飯が食べれなくなることを自分でも分っていたありすは、むすっとした顔をしてお菓子から手を引いてリビングへと行くと面白くも無いテレビを見た。テレビが見たかったわけでも、お菓子が食べたかったわけでもない、でもこのイライラした気分をどうにかしたかっただけ。でも結局ありすのいらいらした気分は夕飯になっても直ることなんてなくて、帰ってきた父親にもどうかしたのか?と心配されてしまった。ありすは友達と喧嘩した。とだけ伝えた。

****************

でも次の日、ありすは鏡のありすが言っていたことが分ってしまった、知りたくなかった。そんなとこ見たくなかった。ありすがトイレへと行って帰ってきた時だ。めありが日直で黒板の文字をせっせと消して話を聞いていないことと、ありすが居ないのをいいことに、めありの友達が話していた。
「どうしてあのありすって子と仲良くしないといけないのかしら」
「だってほら、めありが気に入ったから」
「なんであんな子?学校にまでぬいぐるみ持ってきてるのよ?正直気持ち悪い」
「ねーめありがあんな子と仲良くなろうとしなければ、あたし絶対近づかなかったもん」
教室から聞こえてくるその声にありすは扉に手をかけたまま動けなくなる。友達だと思っていたのに、他の子達は全然そんなこと思っていなくて、むしろ気持ち悪いと思っていたなんて。ありすの顔から血の気が引く。こんな話を聞いて平然とあの子達と話をする自信が無い、ありすは手が白くなるまで握りしめ、この扉から入るのを諦めてめありが黒板を消している側の扉から入ろうと足を進める。
けれどその足もぴたりと止まってしまう、めありもそう思っていたら?めありだってありすの持っているうさぎのぬいぐるみのことを気持ち悪いと思っていて、かわいそうだと思ったから話しかけたってことだったらどうしよう。そう思ったら胸がぎゅぅっとなって苦しくなった。
そうしたらありすは友達がいなくなってしまう。いなくなった。という表現は正しくない、正確には元々友達なんていなかったということになる、自分だけが友達だと思っていたってことになる。
苦しくて、苦しくて、どうすればいいのか分からなくて、扉の前から動けなくなってしまう。怖い、怖くて、怖くて。どうすればいいのか分からない。ぬいぐるみを抱きしめたくとも、トイレにまでは流石に持って行っていない。
「ありすちゃん!!」
目の前の扉が急にがらがらと開いて出てきたのはめありだった。驚いたのもあるけれど、それだけじゃない動悸がありすを襲った。嫌いだって思われてるかもしれない、気持ち悪いって思われているのかもしれない。
「どうしたの?顔真っ青だけれど」
優しく顔を覗き込んできためあり。びくりと身体をすくませてしまうけれど、ありすはおずおずとめありと視線を合わせた。
「あの…めありちゃん、は……友達、だよね」
怖くて震える声になってしまう。
「何を言ってるの?」
友達なわけないじゃない、という言葉が続くのかと思って身構えてしまう。
「友達に決まってるじゃない」
ふんわりと微笑まれてほっとする、めありはちゃんと友達だって思ってくれていたんだ。よかった。他の子なんてどうでもいい、めありが友達と言ってくれるのなら、ありすはそれだけで十分だった。
「うん」
ありすは笑顔で頷いた。

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