駄文

幸福なものたち 幸福なこども00


「わたしたちの住むこの村は、ぐるりと村を囲むように大きな高い壁に囲まれています。壁の外は「神様」や神様に仕えている「神官様」がおわすとてもとても素晴らしいところなので簡単に入ることができないのです。その神聖な場所へ行くことが許されるのは人生を一生懸命に生きてきた、おじいちゃん、おばあちゃん、または神様に選ばれたおとなです。けれども、たったひとつだけ特別なことがあります。ごくまれに神様が子どもを壁の外へと連れて行くことがあるのです。その子どもは「幸福な子ども」と呼ばれ、とてもとても大切にされるのです」

「その幸福な子どもというのは、あなたのことよフェリチタ」
蝋燭の灯りが揺らめく部屋の中。子どもが包まる布団の横で文字のない絵本を開いていた母親は彼女の小さな頭を撫でた。
「壁の向こうに行ってしまったら、おとうさんとおかあさんに会えなくなるの?」
「いいえ、あなたが望めば何時だって帰って来られるわ」
「でも、壁の外に行ったおじいちゃんもおばあちゃんも帰ってこないわ」
少し前に壁の外からお迎えがあった祖父母のことを思い出して少し寂しそうな表情を浮かべる。
「壁の外は素晴らしい世界が広がっているの。その素晴らしさに戻ってきたいと思わなくなってしまうそうよ」
フェリチタは母親の言葉に首を横に振るった。
「あたしは戻ってくるわ。それで、おかあさんとおとうさんと村のみんなに壁の外がどんなに素晴らしいところだったのかお話するの!」
「ええ。楽しみにしてるわ」
フェリチタの笑顔を眩しそうに見つめた母親は、もうひとたび頭を撫でた。
「さ、今日はお休み。明日はトマトの収穫の日でしょう」
「うん、ルーカスとアンナとあたしが当番よ」
「遅刻しないようにしないといけないわね」
「うん。おやすみ、おかあさん」
「おやすみ、フェリチタ」
母親はフェリチタの体をあやすように優しくたたいて、ランプのなかの蝋燭を吹き消した。



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