駄文

パラペッチョ様02


ふらふらと歩く、錆びれた商店街は普段シャッターばかりおりているはずなのに今日はすごく活気があった。何処を見回しても、人、人、人、商店街が出来た当初はこんなふうに人が集まったのだろうけれど、今の状況はその頃と同じではなく、街の真ん中でコンロを出してじゅうじゅうと音を立てて肉を焼いている周りに人だかりが出来ていた。
「俺にも肉をくれ!」
「ははは!!なんたって世界が終わるんだからな!店にあっても困るだけだ、食え、食え!!全部食っちまえ!!」
肉屋が全部無料で配っているみたいだ。
「メロンはどう?うちだけじゃ食べ切れないの。これ、ひと玉2万円するのよ!」
八百屋でも配っていて、その隣ではスイカ割り大会まで開かれて子ども達が棒を振り回している。
「肉もいいが!魚もどうだ!この干物なんて絶品だぜ!」
「刺身、刺身はないのか!?」
魚屋もがやがやしている。予言が外れるなんて微塵も感じていないその様子に恐ろしさを感じた。あるものは全部使ってしまう勢いだ。どうせ世界が終わるのだからと、自分の食べれる限度を越えながら口の中に押し込んでいる大人までいる。不気味だった。食べることに執りつかれた集団の成れの果てのように思えた。怖くなってその場を逃げる。

「ぎゃああああああ!!」
住宅街には不似合いな悲鳴が聞こえて、何事かと視線を向けたら包丁を持ったおじいさんが隣の家の人を追い掛け回していた。
「アンタんちが草刈をしないせいで!うちに虫が増えて増えて大変だったんだ!!テレビの音は煩くて、眠れないし!朝、素振りをしている音も煩い!!オマケにその顔!いっつもにやけているような顔が気持ち悪くて、気持ち悪くて!!ストレスがたまってたんだ!!世界が終わる前にアンンタだけは許せない、殺しても殺し切れん!!」
「止めてくれ!!だったら、言ってくれればいいじゃないか!草刈をしてほしいって!テレビの音量を下げて欲しいって!素振りの時間をずらして欲しいって!!顔だけは無理だが、言ってくれればよかったじゃないか!!」
「煩い、煩い、煩い!!ワシはな!アンタのそのざりざりした声も大嫌いじゃ!!」
ぞっとした、見ていられなくて俺は逃げ出す。心臓がばくばくと煩い。世界が終わるならば何をやってもいい。赤字になるほどの振る舞いだとしても、どうせ明日にはみんな綺麗さっぱりいなくなってしまうから。人を殺したっていい、どうせ明日にはみんな綺麗さっぱりいなくなってしまうから。

嫌な汗を感じながらふらふらと歩いていると見知った顔を見つけた。同級生の佐々木と鮎川。手を繋いでふたりして歩いている、けれど鮎川は別のクラスの河合と付き合っている。幼馴染のカップルで夫婦だとからかわれることもあったが、付き合ってるから当然だろ!と 河合が恥ずかしがりながらも怒鳴っているのを目撃したことがある。その彼女、鮎川が何故、佐々木と一緒にいるのか。
「佐々木、鮎川…」
挨拶よりもただ彼らの名前を呼んだ。
「あ、その。鮎川は悪くないんだ!俺が、その、彼女のことずっと好きで。でも河合の彼女だからって諦めてたけど、世界が終わるんだろ。だから最後に伝えたかったんだ!」
俺に気づいた佐々木は何も聞いていないのに焦ったように言う。俺は視線を鮎川に向けた
「鮎川おまえ、河合はどうしたんだよ」
河合は頭は悪いが、明るくて誰とでも仲良くなれるいいやつだ。俺も一緒に遊んだことがある。
「世界が終わるんでしょう?だから、興味があって」
顔を赤く染めて、下を向く。どういうことだ?興味?
「3人で、遊ぼうって」
佐々木が鮎川を庇うように一歩前にでた。
「さんにんって、おい。それって、いいのか、鮎川」
嫌な予感がして鮎川を見る。鮎川は派手なグループの子じゃない。どちらかといえば地味で大人しく、優しい。花の世話を係りでもないのにしている姿を見たことがあるし、駅でおばあさんの荷物を持ってあげているのを見たこともある。それなのに、その鮎川が男ふたりに囲まれて遊んでみたいなどと言い出すなんて信じられなかった。
「佐々木君も、いいよって言ってくれたから」
控えめな声だったけれど、鮎川の意思だということが分かった。佐々木も、河合も、強制していない。
「じゃあな。お前もこんなところでふらふらしていないで、やりたいことやっておけよ。明日にはみんな死んでいるんだ」
そういい残して河合は鮎川と行ってしまった。俺はショックを受けていた、別に鮎川を特別な目で見ていたわけではない。佐々木と仲がよくて、あいつらは将来結婚してもおかしくないな。なんて思っていて、それなのに。世界が終わる。その一言で、あの鮎川が。俺がショックを受ける筋合いじゃないのに、胸が苦しくなった。佐々木はどうなんだろう、佐々木も世界が終わるなら鮎川が別の男の好意を受け取ってもいいと言えるのか。悲しい気持ちになってふらふら歩く。みんな世界が終わるからって好き勝手して。世界が終わらなかったらどうするつもりなのか。でも、誰一人としてそんなふうに考えている人はいないみたいだ。ここまできて俺はいよいよ世界が本当に終わるのではないかと思い始めた。だって、みんながそう言っている。言葉で行動で。空を見上げると夏雲が呑気に青空に漂っている、蝉も元気に合唱している。平和だ。とても。でも、世界の終わりにはこういう日がいいのかもしれない。
「そっか。世界が終わるのか」
言葉にしてみると何故かすとんと納得した。みんなが、世間がそう言っているのだ。ならば世界が終わるのだろう。やり残したことはないか。と聞かれればやり残したことばかりだ。参考書は手づかず、彼女もいたことがない、行ってみたいと漠然と思っていた海外旅行にだって行っていない。何もかもやり残している。そのはずなのに、あれをやらなきゃこれをやらないと。という気持ちは沸いてこない。ただもうすぐ昼なのでカレーが食べたいな。とだけ思った。

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