駄文

パラペッチョ様03


未だパラペッチョ様と叫びながら町を巡回している人達、商店街で休憩を挟みつつ貪り食っている人達、女装をして歩いている人、庭先でバーベキューをしている家族、大音量で大人たちが大勢集まって酒を浴びるほど飲んで馬鹿騒ぎしている家。様々な人を通り過ぎながら自宅へと戻る。みんながそれぞれ最後の日に選らんだ行動をしている。
「ただいま」
帰宅するとカレーのいい臭いが漂ってきた。食べたいと思っていたものが出てくると嬉しくなる。
「お帰りなさい」
家族のみんなが出迎えてくれた。母親は何処かほっとしたようにも見えた。特別なことなど何もない、俺も結局母親と考えることは同じだった。妹もきっとそう。
「ただいま」
家に帰ってきたらほっとした。世界の終わりなんて仰々しいことが起こっていても大騒ぎしたりなんてしていない。リビングで何かを覗き込んでいる父親、母親、妹へと近づく。
「何を見てるんだ?」
自分も輪の中に加わるとそれが何であるのか直ぐに分かった。アルバムだ。iPadの中に撮りためてあった家族写真。俺はスマホを持っていてもあまり写真を撮らない。撮影者は父と母、あと妹。
「これって旅行行った時の?」
俺が聞くと父さんが頷いた。
「ああ。おまえが小学生で、千晶が幼稚園の時か。お前たちふたりがはぐれて父さんと母さんは大慌てして。散々探し回って見つけたと思ったら、地元の子と一緒になって海で遊んでいてなあ。あれにはびっくりした」
その時の写真が残ってる。海で遊んでいた妹がやっと見つけたとへとへとになっている両親を収めた1枚。この時の妹は水中カメラを首からかけて離さなかったんだっけ。そのせいでこの時の旅行写真は俺がピースしてるのに頭だけ写ってなかったりとちょっとしたホラーになっている。他の写真もやたらと見切れてる。唯一ばっちり撮れているのは彼女自身の自撮りだったりする。
「てか。この旅行俺が行ったのかどうなのか分からない写真ばっかじゃん。せいぜい顔半分しか写ってない」
「小さかったんだからしょうがないでしょ。あ!これ、このぬいぐるみ!気づいた時からうちにあったと思ってたけど、おばあちゃんからのプレゼントだったんだ」
今は亡きばあちゃんが2歳くらいの妹に大きなクマのぬいぐるみを渡している写真があった。妹はきょとんとした顔でばあちゃんを見上げていて婆ちゃんが満面の笑みでクマのぬいぐるみを渡している。
「ふふ。この時おじいちゃんが渡したいと言っていたのにじゃんけんで負けちゃって。自分も選んだのに。て不貞腐れたのよ」
後ろに見切れるようにして爺ちゃんも写っていた。母さんはそういうが妹を前にした爺ちゃんの顔はでろでろだ。このぬいぐるみは今も妹の部屋にある。
「ぷはっ。お兄ちゃんこのかっこなに」
スライドさせて出てきた写真は、戦隊ヒーローの格好をした小さな俺と父さんが小さな俺を高くに上げているものだった。
「ああ覚えてる覚えてる。つかこれの見るべきとこはそこじゃない。俺がヒーロー役で父さんが怪獣役なのに何度も起き上がって倒そうとしてくるんだ」
「大人気な!」
「今やっても負ける気しないがな」
妹の言葉に何故か誇らしげに胸を張る父さん。今なら多分俺が気を遣って負ける。その後も何枚も家族の写真が溢れてくる。うちでは1年に1度は家族旅行に行く。という暗黙の了解みたいなのかあって、俺も妹も反抗期真っ只中でありながら旅行には一緒について行った時の写真まであって笑ってしまう。妹の顔なんて不貞腐れてるし、俺なんてカメラを睨みつけている。そんなに嫌だったなら行かなければよかったのに、旅行には一緒に行くアンバランスさ。父さんと母さんが付き合ってる時の写真まで出てきて、父さんはフォルダを閉じて早々に飛ばしてしまった。母さんは楽しそうに笑っていた。結局食べたかったカレーにありつけたのはおやつの時間になった頃だった。

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