駄文

パラペッチョ様04


それからも1日家族で平和に過ごした。SNSで友人たちの言葉を見たが彼らも各々世界の終わりに相応しいと思ったことをしていた。世界の終わりにみんなで馬鹿みたいに騒ごうぜ!という誘いが午前中にあったみたいだったけれど俺は気づかずにスルーしてしまった。友達と過ごすのも悪くなかったと思う、でもこれ見よがしに世界の終わりだからとはしゃぐのもどうにもしょうにあわない。みんなに「また明日会おう」なんて返事をすると、「また来世!」「地球があればな!」などと返事が返ってきた。時計を見ると23時。あと1時間で世界が終わる。世界の終わりだというのに心は穏やかだ、両親も妹もすでに夢の中。彼らは眠ったまま普通の世界が終わるならばそれでいいと思っているのかもしれない。テレビのぺらっとした灯りが俺を照らす。朝から大騒ぎだったテレビ業界も今は大人しくなっている。殆どの局は放送を中止してしまった。世界が終わるならば各自のやりたいことをする。と通常の日本では考えられない行動。大雪が降ろうと、台風で家が流されようと、仕事には行かなければならないというブラック企業が軒を連ねるこの日本で全ての事柄が中止になっていた。たったひとつだけ映った番組。スーツをかちっときめた男性アナウンサーが言葉を伝える。
「世界の終わりが残り1時間に迫ってきました。私は勤続25年になりますが、残念ながら良縁には恵まれず、両親も他界してしまいました。世界が終わる最後の日に何がしたいのか。考えた時に私は、この仕事を続けていたいと思いました。私はここに残って放送を手伝ってくれた皆さんと、今、これを見てくださっている視聴者の皆様と一緒に世界最後の日を迎えることができ、大変光栄に思っております」
感情の篭った喋り方、今も日本国内の人が何千人もの人がこの放送を見ているのだろう。みんなそれぞれ選んだ終末のかたちをとっているのだろう。ああ。なんだかだんだん眠たくなってきた。世界の終わりとは地球が急に爆発したりだとか、ゾンビが現れて食い殺されるとか、そういう特別なことじゃなくて、きっと眠ってそのまま世界が閉じていくのかもしれない。

ゆっくりと、ゆっくりと、目を閉じる。

様々なことを思い出す、友達のこと、家族のこと、楽しかったこと、何故か悲しいことは思い出せなかった。全部全部頭に浮かぶのは自分が嬉しくて、幸せな日々のことばかりだ。ああ。こうして世界が終わるのか。テレビの声を聞きながらまどろむ。俺の視界が黒に染まった。

ふと、目を開ける。テレビがまだついていた、今何時だろうと時計を見ると世界の終わりの5分前だった。最後の5分。カップうどんができるな。とぼんやりと思った。
「みなさん、とうとう世界の終わりまで5分をきりました」
「大切な人に別れは伝えられましたか?喧嘩したままではありませんか?伝えたい言葉を伝えられましたか?」
「泣いても、笑っても、世界は終わります」
「それならば、笑顔で最後を迎えましょう。みなさん、我が放送局を人生最後まで見てただきありがとうございます」
「みなさん、さようなら!」
時計の秒針がカチリと普段以上に大きな音をたてた。

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